日本酒の主原料は、米と米麹ですが、これらのみを用いて造られたお酒を純米酒といいます。酒税法では、日本酒の他の原料として醸造アルコールの添加も認められています。醸造アルコールとは、主に糖蜜を原料にして発酵し蒸留したアルコールで、焼酎(甲類)のようなものです。
醸造アルコールは、もろみを上槽する直前に添加されますが、その目的は、2つあります。
1つは、お酒の原価を下げることです。酒税法では、醸造アルコール等の副原料の添加量は、白米重量の半分以下と定められていますが、普通酒など価格の低い酒は、醸造アルコールを比較的多く添加します。
2つ目の目的は、もろみ中の香りを引き出すためです。アルコールは香りを吸着しやすい性質のため、もろみに含まれる芳醇な香りが上槽したときに酒に移行しやすくなります。酒税法では、本醸造酒、吟醸酒、大吟醸酒に添加される醸造アルコールの量は、白米重量の10分の1以下と定められておりますが、少量のアルコールを添加することで、香りを引き立ててくれます。一般的に純米酒が醸造アルコールを添加した吟醸酒より香りが低いというのはこのためです。
酒蔵の中には純米酒しか造っていないところも数多くあり、メディアの後押しもあり、近年純米酒愛好家もかなり増えてきました。純米酒愛好家の人たちで、特に熱心な人たちは醸造アルコールを「混ざりもの」として全く認めようとはしません。試飲即売会等で、吟醸酒の試飲を勧めると、頑なに拒否されることもよくあります。純米酒こそが真の伝統的なお酒だというのが純米酒愛好家の立場です。
「美味しんぼ」54巻では、日本酒が大きく取り上げられました。このなかで、主人公をはじめ数人でいくつかの酒の利き酒をするという場面がありました。純米大吟醸と醸造アルコールを添加した大吟醸が登場しましたが、全員が、醸造アルコールを添加していない純米大吟醸の方を評価し、醸造アルコールを加えた方の大吟醸をことごとく批判していました。
国内で最も権威がある全国新酒鑑評会では、醸造アルコールを添加した酒の方が、純米酒よりも圧倒的に多く入賞しております。全国新酒鑑評会が市場の流れをすべて反映しているとは思いませんが、審査員のレベルは国内では間違いなくトップクラスだと思います。
もちろんお酒は嗜好品ですので、市場ではどちらが優れているということはないと思います。ただ、銘柄を伏せてお酒を飲んだ時に、果たして純米酒の方を高く評価できますでしょうか。
わが国で米による酒造りが始まったのは奈良時代からといわれております。醸造アルコールが添加されるようになったのは、江戸時代初期ですので、純米酒が伝統的な酒であることは間違いありません。その純米酒を愛することは、とてもすばらしいことだと思います。ただ、純米酒以外の酒がコケにされるのは、私たち造り手としては大変悲しいことです。
日本酒には多くのタイプの酒があります。自分の好みを決して押しつけず、さまざまな種類の酒と他人の嗜好を尊重する。私はこれこそが、酒飲みの美学だと思うのです。