酒造りの基本的な工程はどの蔵でも同じですが、「どんな酒を目指すか」によって手法やこだわりはさまざまです。
ここでは〈菊泉 吟醸酒〉を例に、滝澤酒造の酒造りをご紹介します。
米が水を吸い過ぎないよう厳密な時間管理が必要なため、10kgずつ小分けにして手洗いします。
15℃程度のやや高温な水で短時間、タイマーを使って秒単位の限定吸水を行います。よく水を切り、一晩置いて乾燥させます。
直径2mほどの和釜に水を溜め、その上に甑を置きます。
甑の中に米を平らに敷いて、一粒一粒に蒸気がまんべんなく通るよう、1時間以上かけて蒸します。
外側が硬く内側は軟らかい、ムラのない酒造りに適した蒸米に仕上げるため、機械ではなく和釜と甑を使い続けています。
一定温度まで冷まされた蒸米を麹室の中央にある大きな机(床)に移動し、種麹を振りかけます。
米の内部に菌糸が繁殖して温度が上昇するので、夕方に米を揉み解して混ぜる「切り返し」を行います。
翌朝、床にある米を箱に移す「盛」を行い、理想的な温度経過になるよう数時間置きに手を入れます。
混ぜすぎたり薄く盛りすぎたりすると麹の温度が上がりません。
逆に、混ぜるのを怠ったり厚く盛りすぎたりすると温度が上昇しすぎてしまいます。
箱麹法で理想的な温度経過をとるには、習熟した技術が必要です。
時に深夜まで及ぶ作業を繰り返し、米を麹室に運んでから約48時間後、育てた麹を冷たい蔵の中に出して乾かします。
こうして出来上がる酒母やもろみの中で溶け過ぎない“締まった硬めの麹”が、すっきりとした味や香りを生み出します。
完成した酒母を約1,500Lのタンクに移し、翌日タンクの中に水・麹・蒸米を投入して櫂棒で撹拌します。
この最初の仕込みを「添」といいます。添仕込みの翌日は「踊」といって、酵母の増殖を促進させるために仕込みは行いません。
発酵によってポコポコと泡が立ち、蔵の中にいい香りが広がります。
踊の翌日は「仲」という2回目の仕込みを、その翌日は「留」という最後の仕込みを行います。
一般的な発酵温度より低温で発酵させることで酵母にストレスをかけることができ、そのストレスが香りを引き出します。
もろみ造りのポイントは糖化と発酵のバランスをいかにうまくとるか。
滝澤酒造の吟醸仕込みでは、もろみ日数が23〜27日になるよう、仕込み温度と仕込み後の発酵温度を管理しています。