コラム
第6回 火入れ(2000.2.20)

 寒さも峠を越え、春が近づいてきました。酒造りもいよいよ終盤です。

 お酒はしぼった後、おり引き、ろ過という作業を経ますが、その後、加熱殺菌せず、生のままビン詰めされるのが生酒です。それ以外の酒は、「火入れ」を行います。

 火入れの目的は、お酒を65度前後に加熱することで、微生物を殺菌するとともに、お酒の香味を変質させる酵素を破壊することです。

 滝澤酒造では、火入れを行う際、蛇管という道具を用います。(写真左)

 この蛇管を熱湯の入った釜の中に入れ、蛇管に酒を通すことで、酒が加熱殺菌されるのです。

 西洋では、ワインの保存性を高めるために、パストゥールが低温殺菌法を発明したのが1865年です。しかし我が国では、それより300年前の1560年頃から火入れが行われていたのです。先人たちの知恵には、驚愕させられますね。

 滝澤酒造では、3月に入ると蛇管を蔵の隅から引っ張り出し、火入れを始めます。火入れをしたときに生じる、新酒をお燗したときと同じあの独特な香りがただよう頃、春の訪れを感じるのです。

 春近し 釜で目覚める 蔵の蛇


第7回 大吟醸は高いの?(2000.3.22)

 大吟醸とは、一言でいうと、精米歩合50%以下の米を原料とし、長期低温発酵させたお酒のことです。普通酒に比べると、大分値段も高く、なかなか飲み慣れませんよね。

 小売価格では、1升瓶で5,000円から6,000円に設定している蔵が多いようです。なぜ、このような価格になるのでしょうか。

 それはまず、原料米が高いことです。大吟醸というと、多くの蔵は酒造好適米山田錦を用い40%くらいまで精白します。山田錦は玄米で1俵(60kg)、3万円以上もします。

 例えば、40%精白の山田錦を用い700kgの白米で仕込みをする場合、原料米だけで100万円近くかかります。原料米だけでもこんな高価になってしまいますが、何といってもすさまじい手間がかかるのです。

 酒造り職人にとって、大吟醸の仕込み時期はきついです。皆、必死です。目の下にくまをつくり、蔵内は激しい緊張感がただよいます。特に、杜氏の苦労は想像を絶します。昼夜を問わない麹やもろみの管理、酒蔵の看板商品であるがゆえに、決して失敗してはいけないというプレッシャー、肉体的にも精神的にも相当追いこまれます。大吟醸の価格は、そうした職人に対する評価なのでしょうね。

 さて、滝澤酒造の菊泉大吟醸典雅は、1升瓶で3,880円(箱なし)です。安いですよね。これは、決して悪い米を使っているからではありません。山田錦を40%以下まで精白しています。また、その手間のかけ方は、このホームページでお伝えしたとおりです。

 職人の苦労を思うと、もう少し高価に設定したいところです。でも、その反面、菊泉の伝統技術の粋を少しでも多くの人に知ってもらいたい。そんな思いが、菊泉にこめれています。

 私は、手抜きという言葉が大嫌いです。これからも、地味で真面目な酒造りを目指していきます。

 酒好きの 笑顔をながめ 報われる


第8回 女人禁制(2000.4.25)

 かつて、酒蔵に女性が入ることはかたく禁じられていました。宮尾登美子作「蔵」、尾瀬あきら作まんが「夏子の酒」、NHK連続テレビ小説「あまからしゃん」などでも、蔵での厳しい男性社会が描かれています。

 女人禁制というと、ひどく女性を蔑視しているように聞こえるかもしれませんが、酒蔵での女人禁制はそれなりの理由があったのです。

 戦前までの酒造りは、ほとんどすべての蔵で、杜氏を中心とする出稼ぎ労働者(蔵人)たちが行っていました。雑菌に汚染されないよう、仕込みは1日のうち最も寒い時間帯に行います。そのため、原料処理担当者は夜中に起きて米を蒸す準備をしなければなりません。

 また、もろみが発酵してくると高泡を形成するのですが、その泡が桶から溢れないように、夜通し泡を消す「泡消し」という作業をしていました。現在では、泡消し機という機械が泡を消してくれます。また、泡を形成しない「泡なし酵母」が開発されています。

 今と違って、微生物管理が十分でない時代です。もし、もろみを腐造させようものなら、それこそ一大事です。蔵元にとっても杜氏や蔵人たちにとっても一気に死活問題となります。

 化粧をした女性が蔵に入れば、麹やもろみに、においがつきます。今でもそうですが、仕込み期間に納豆やヨーグルトを食べることは厳禁ですし、香りの高い整髪料をつけて蔵に入ってはいけません。

 チームワークも大切です。封建的な蔵社会のなかで、約半年間家族と離れ、過酷な労働をしているわけですから、女性の色気は、蔵内の和を乱すと考えたのでしょう。

 ところが、現在では女人禁制など言っていられません。男性にはない女性がもつ繊細な感覚が、酒造りにおいても必要になっているのです。

 実際、日本各地の酒蔵では、たくさんの女性が酒造り職人として活躍しています。冒頭にあげた3作品も、酒蔵という封建的な男性社会のなかで、果敢に挑戦する女性の姿をテーマにしています。

 今でも、酒造りは決して楽な仕事ではありませんが、今後、さらに多くの女性が酒造りの世界に入ることを期待しています。

 酒蔵で 醸すその名は もろみさん


第9回 杜氏組織(2000.5.12)

 前回のコラムでは、酒蔵での女人禁制について書きましたが、今回は杜氏の組織について触れようと思います。そもそも、杜氏とは、酒造りを行う出稼ぎ労務者のリーダーであり、例年、酒造期になると同一地域の人々を集団で率いてきます。その組織は、一昔前は以下のような呼称がありました。

杜氏(とうじ) 蔵の管理、帳簿管理、もろみの仕込みと管理
(かしら) 蔵人の指揮、仕込み水汲み、もろみ仕込み
大師(だいし) 麹用蒸米の取り込み、麹室仕事一切
酒母廻し(もとまわし) 酒母立ての仕事一切、もろみ仕込み
道具廻し(どうぐまわし) 道具洗い、水の運搬、米洗い、蒸米取出し
釜屋(かまや) 甑蒸し、釜焚きつけ、米洗い、米量り、仕込み水汲み
上人(じょうびと) 桶洗い、米洗い、水汲み、道具準備
中人(ちゅうびと) 水汲み、米洗い、蒸米運び、洗いもの
下人(したびと) 洗いもの、米洗い、水汲み、泡番
飯炊き(めしたき) 食事一切、麹室手伝い、桶の見回り、掃除

「特別展酒の文化史」(埼玉県立博物館)より引用

 このように杜氏の組織はその職階が明確に分けられており、非常に統率のとれた集団です。このうち、杜氏、頭、大師といった重要なポジションを3役といいます。表の下のほうに位置する蔵人の仕事は相当きつく、釜屋になるまで10年以上かかることもあったそうです。

 現在では、昔ほど職階の差は厳密ではありませんが、ほとんどの蔵では、麹係、酒母係、もろみ係など役割分担を決めています。

 昔も今も、それぞれの担当者が他者の役割を尊重し、和を重んじることで良酒を造ることができるのです。

蔵人の 心まとまり 和酒となり


第10回 酒瓶と地球環境(2000.7.24)

 平成9年4月より、容器包装リサイクル法が施行されました。この法律は、ごみの減量化や資源の有効利用を図ることを目的として、一般廃棄物として排出される容器包装をリサイクルの対象としたものです。

 法律の影響もあってか、企業、自治体、消費者ともリサイクルに対する意識は高まってきたといえるでしょう。

 日本酒業界では、中小の酒蔵は法律が施行されるはるか以前に、容器の再利用に取り組んできましたし、現在も取り組んでいます。最も代表的なのは、昭和の初期ころから導入された一升瓶(1.8L)です。

 弊社でも、一升瓶は100%回収瓶を用い、また小瓶でも居酒屋などの業務店に出荷しているものは、ほとんど回収し再利用しています。

 ペットボトルや缶などのリサイクルは、回収されると、分解されて再資源化されるため、多くのエネルギーを要します。また、リサイクル工場も少ないため、回収した容器を運ぶのにも多くのガソリンを使ってしまいます。

 酒瓶の場合、回収された瓶を洗瓶機という機械できれいに洗い、ラベルと瓶内の汚れを落とし、再利用します。これは、ペットボトルなどの再生利用と比べて、著しく環境負荷が小さいです。

 消費者の方にお願いしたいことは、瓶をゴミではなく資源として扱ってほしいことです。もちろん、他の容器についても同じです。皆様が空いた容器を水ですすぐだけでも洗瓶時間は大幅に短縮され、エネルギーの使用が減ります。空容器の中に、タバコの吸殻や紙くずなどを入れるなんてもってのほかですよ。

 確かに瓶は、他の容器に比べて重いという欠点があります。でも、これは人間が軽いものをもつのに慣れてしまったから重いと感じるようになったのでしょう。近年、子供たちの体力が低下していると言われていますが、大人たちが便利さを追求しすぎた結果かもしれません。

 私も、この業界に入って約6年になりますが、一升瓶が6本入った箱でさえも重いと感じました。今では10本入った箱でも重いとは感じません。

 一般に瓶の寿命は8回だといわれます。つまり、だいたい8回再利用すると瓶の強度が弱まり割れてしまいます。1回しか使わないことに比べれば、かなり地球環境にやさしいといえますが、消費者の皆様が空容器をすすぐなど、ちょっとだけ協力してくだされば、瓶の寿命もさらに伸びます。

 皆で協力して、瓶を再利用する文化、そして地球環境を守っていこうではありませんか。

 一升瓶 大事に使って 一生瓶


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