コラム
第21回 一気飲みの危険性(2002.2.11)

 寒さの厳しい日が続きますが、関東地方では桜のつぼみもふくらみ始め、春の気配が感じられるようになりました。先月末には、大吟醸の仕込みも無事終わり、只今順調に発酵しております。

 さて、新年会のシーズンも終わり、皆さんの肝臓も一休みといったところでしょうか。無茶な飲み方、飲ませ方はしませんでしたか。新年会や忘年会、入学式、卒業式の季節は、急性アルコール中毒の問題がよく取り上げられます。お酒の無理強いや一気飲みは、時に人を死に至らしめることさえあります。

 正直、私も学生時代はよく一気飲みをしましたが、これは非常に危険な行為です。アルコールを摂取すると、肝臓でアセトアルデヒドという物質に分解され、最終的には酢酸に分解されます。体重などによって個人差がありますが、普通の人では、1時間に約7gのアルコールが分解されます。これは、日本酒なら0.3合、ビールなら140ml、ウイスキーのストレートでは17mlくらいに相当します。血中アルコール濃度では、約0.017%になります。

 血中アルコール濃度が0.05%を越えるとほろ酔い状態、0.25%以上で強度の酩酊状態、0.35%以上で、昏睡状態、死の危険性もある状態となります。

 一気飲みは文字通り、血中アルコール濃度を一気に高めてしまうので、本当に恐ろしいのです。日本酒では6合、ビールではジョッキ3杯(3L)、ウイスキーストレートでは360mlを一気に飲むと、血中アルコール濃度は0.35%以上となり、取り返しのつかないことになるかもしれません。

 適度な飲酒は、血液の循環を良くしたり、善玉コレステロールを増やしたりなどと、さまざまな効能があります。ノミュニケーションという造語もありますが、酒はコミュニケーションの道具にもなります。反面、無茶な飲み方をすればお酒は毒となってしまいますし、感情的になることで人間関係を悪化させてしまうこともあります。

 お酒を巡るトラブルはなかなか絶えないものですね。私どもメーカーも、少なからず責任を感じております。大分以前から、未成年者の飲酒が社会問題なっていますが、私たち大人としてはお酒の功罪を自覚し、お酒は諸刃の刃であるということをもう一度認識する必要があるのではないでしょうか。

一気飲み 時間がたてば 憂うのみ

今回のコラムは、ついつい調子に乗って飲みすぎてしまう自分への戒めでもあります。

 

第22回 液化仕込み(2002.4.27)

 3月25日、今年の仕込みも無事終わり、杜氏も半年間の勤めを終え無事故郷の岩手に帰りました。お陰様で、今年度の埼玉県の鑑表会では「升田屋」が大変良い成績を獲得しました。皆様に改めて感謝申し上げます。

  もうすぐ、ゴールデンウイークですね。新緑が美しい季節になりました。私も花粉症からようやく開放され、快適な日々が過ごせるようになりました。

 さて、清酒とは本来蒸した米を用いて造られるものですが、ここ10年の間に、米を蒸さずに米を溶かす液化仕込みという方法が急速に普及してきました。

 酒造りにおいて、麹は米のデンプンをブドウ糖に分解するという重要な役割を果たします。液化仕込みは、麹の使用量を極力減らし、麹の代用品として特殊な酵素剤を用います。米と水を液化装置というものに入れ、耐熱性の酵素により米を液状化し、それを冷却した後に少量の麹と酵母を加え発酵させます。

 液化仕込みは、米を液状化するため、もろみを搾った際の酒粕を大幅に減らすことができますし、米を蒸す手間、麹を造る手間が省けるため、コストは大きく節減されます。ただ、液化仕込みは大きな設備投資が必要なため、大手メーカーや一部の中堅メーカーしか採用しておりません。

 液化仕込みは、その賛否をめぐり業界内外で大きく論じられてきました。地酒メーカーの多くは、液化仕込みについては否定的です。特に、吟醸酒を主体に製造し、酒粕を意図的に多く出している地酒メーカーほど、液化仕込みを忌み嫌っています。酒粕が多く出るということは、その分搾ったお酒が少なくなるので、コストの高いお酒になってしまうのです。

 しかし、液化仕込みを悪と決めつけて良いのでしょうか。確かに、液化仕込みは伝統的な酒造りから脱線しているかもしれません。しかし、米の立場になれば、粕になるより酒になった方がよいでしょう。原料を有効活用するという点では、むしろ画期的な酒造りではないでしょうか。

 ただ問題なのは、私たち酒類業界関係者が消費者に情報を十分に伝えていないことです。多くの消費者は、液化仕込みという言葉を知らないはずです。液化仕込みは、従来の酒造りとは、大きく異なります。私たちは業界関係者は、まずそのことを正確に消費者に伝え、どちらの方法で造ったのかを、容器に表示するべきではないでしょうか。

 最終的にその是非を決めるのは、消費者なのです。

 米が溶け 木々の青さに 雪が解け

 第23回 冷や酒 (2002.5.27)

 暑くなり、冷や酒のおいしい季節となりました。キリっと冷やした酒は口当たりが良く、ついつい飲みすぎてしまいますよね。宴会中は意識がしっかりしていたのに、終わる頃になって立てなくなったという経験はありませんか。私はあります。

 これは、冷や酒の飲みやすさだけでなく、胃の中で消化吸収される温度が関係します。お酒に限らず食べ物や飲み物は、体内で30度から40度位で分解されるため、冷やした酒はアルコールが吸収されるのに時間がかかるのです。

 燗酒が体に良いというのは、こうした理由があるのですね。親の意見と冷や酒は後で効くとはよくいったものです。

 冷や酒の酔いを抑えるには、隣に水を置き、酒と水を交互に飲むなどすれば効果的です。是非お試しください。飲み口の良さに、油断は禁物です。

冷や酒を 飲んだ次の日 酔い覚めず

第24回 生酒 (2002.7.27)

 今年も暑い夏が続きますね。わが町埼玉県深谷市は、全国的にかなり暑い地域です。こんな季節には、枝豆にビールもいいですが、刺身に冷えた日本酒も最高ですよ。

 前回のコラムでは、冷酒を取り上げ、冷酒と酔いの関係について紹介しました。冷酒とは非常にあいまいな表現で、明確な定義はありません。一般的には、飲む人が冷蔵庫などで冷やした酒と解釈されます。冷酒=生酒と勘違いされがちですが、冷酒は必ずしも生酒とは限りません。

 生酒とは加熱殺菌(火入れ)を一切していないお酒のことです。通常、お酒はもろみを搾った後に火入れをして貯蔵されるのですが、生酒は火入れをせず低温で貯蔵されます。火入れをしないことで、新鮮な風味が損なわれないという長所がある反面、酵素が生きているため香味が変わりやすく、常温では劣化しやすいという短所があります。(火入れについてはコラム6を参照)

 似たような言葉に生貯蔵酒とういうのがあります。生貯蔵酒は、生酒と同じく、もろみを搾った後に火入れをせずにタンクなどに貯蔵されます。生酒と違う点は、瓶詰めをするときに火入れをするということです。生貯蔵酒は生の状態で保存されるため生酒本来の風味を保持しつつ、瓶詰め時に熱を入れることで瓶詰め後の保存性が高められます。ただ、火を入れることで、生酒よりは新鮮味が失われてしまいます。

 ちなみに、生酒、生貯蔵酒以外の酒は、通常貯蔵時と瓶詰め時に2回火入れを行います。

 生酒と生貯蔵酒は、購入後も低温で貯蔵し、冷えた状態で飲むのが好ましいです。ただ、それら以外の通常のお酒でも、冷えた状態で味の引き立つものもあります。

 だからといって、何でも冷やして飲むのがいいということではありません。お酒の飲み方は、冷や、ロック、常温、燗など多様なのです。大吟醸酒でも、燗の合う酒もあります。お互い、飲み手のスタイルを尊重して、お酒を楽しみましょうね。 

夏祭り 浴衣で飲むひと なまめかし

第25回 10月1日は日本酒の日 (2002.9.26)

 暑かった夏も終わり、すっかり過ごしやすくなりましたね。鈴虫の鳴き声も心地よく聞こえるようになりました。

 もうすぐ10月ですが、10月1日が日本酒の日であるということをご存知ですか。酒のつくりの酉は、酒の仕込みや貯蔵に使われた甕の象形文字に由来しており、酉1文字で酒という意味がありました。その酉は、干支でいうと10番目になります。

 また、新米の実る10月は昔から酒造りが始まる時期で、以前は10月1日から翌9月30日までを酒造年度とされておりました。10月1日は酒造元旦として祝う習慣もあったので、10月1日が日本酒の日となったのです。

 残念なことに、最近では冠婚葬祭などに日本酒が使われる機会が以前より少なくなりました。もちろん、これは私たち酒造業界の努力が足りないことが大きな原因でしょう。しかし、御神酒、鏡開き、お清めなどの言葉に代表されるように、日本酒は古来から私たち日本人の生活文化に密接に結びついてきたものです。

 日本人の大切な食文化である米とその米から造られる日本酒は、私たち日本人のアイデンティティーを形成する重要な一部ではないでしょうか。

 結婚式を神前式にする場合、三々九度の盃にビールは注がないですよね。ならば、披露宴では鏡開きをしましょうよ。乾杯は日本酒の方がかっこいいじゃないですか。

 おっと、すいません。ここ数年、同業者以外の知人の結婚式に出席した際、鏡開きをした披露宴が少なかったので、ちょっと愚痴っぽくなってしまいました。

 この季節は、タンクで熟成し飲み頃を迎えたお酒が続々と出荷される時期です。実りの秋に日本酒で乾杯。

穂が実り 旬菜食し 頬実り

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