コラム

第11回 ビールかけ反対(2000.9.3)

 プロ野球もいよいよ終盤です。セ・リーグは、巨人の優勝が決まりそうですが、パ・リーグは、まだまだわかりませんね。

 選手たちは優勝すると、必ずと言っていいほどビールかけをしますね。祝賀会会場で狂喜乱舞する彼らの姿は、テレビでよく見ますよね。惜しげもなくビールをかけ合ったり、酒樽を床にぶちまけたりと、もう無茶苦茶ですよね。

 厳しい練習に耐え、生活を懸けてペナントレースを戦ってきたわけですから、その喜びもひとしおだと思います。ただ、選手の皆さん、ちょっと考えてみてください。

 当然のことですが、ビールはかけるものではなく、飲むものです。ビールを造った人々は、あの光景を見て、どんなに悲しむことでしょうか。もちろん、日本酒を造っている私にとっても、見るに耐えがたいです。

 酒の仕込みはきついです。仕込み期間中は、朝早く起きて、休日もほとんどなしに働きます。ときには、徹夜の作業もあります。本当に疲れます。でも、酒を飲む人の笑顔を見ると、そんな苦労も吹き飛んでしまうのです。

 造り手の最大の喜びは、飲み手の笑顔です。あなたの、おいしそうに飲んでいる顔があるからこそ、過酷な仕込み作業に耐えられるのです。

 大手の日本酒メーカーや、ビールメーカーで働く人も、同じ思いを抱いているはずです。醸造過程の多くが機械化されているため、小さな地酒のメーカーに比べれば、肉体的負担は小さいでしょうが、皆、飲む人のことを真剣に考え、酒やビールを造っているのです。

 昨年は、ダイエーホークスが日本シリーズを制しました。祝勝会会場では、選手たちはビールかけをせず、代わりに水をかけあいました。チームの母体が、酒類も扱う大手食品スーパーですから、ある意味、当然の行為といえますが、プロ野球の悪しき慣習を破ったということは大いに評価できます。

 今年の優勝チームの皆さん、優勝を祝うのは大いに結構ですが、勇気をもってビールかけをやめてください。笑って飲んで、祝いましょうよ。

 ビールかけ 造る人々 命かけ


第12回 日本酒と糖尿病(2000.10.7)

 シドニーオリンピックも終わり、すっかり秋らしくなりましたね。プロ野球日本シリーズでは、いよいよON対決実現でしょうか。前回のコラムでは、造り手の立場からビールかけに反対しましたが、私の願いもむなしく、ジャイアンツのリーグ優勝時には、はでな祝勝会が行われました。

 これにめげることなく、今後もビールかけ反対の姿勢を崩さず、微力ながら、1人でも多くの人にビールかけ反対を訴えていこうと思います。

 さて、本題に入りますが、最近日本では、糖尿病の患者が急増しているそうです。「日本酒を飲むと糖尿病になる」と聞いた人もいるかもしれませんが、これは誤りです。

 糖尿病は、血液中の糖分をエネルギーに変えるインシュリンが不足するために、摂取した糖分が血液中に過剰にたまってしまう病気です。糖尿病のおもな原因は、遺伝、肥満、ストレスですが、放置すると恐ろしい合併症をも引き起こしてしまいます。

 日本酒はカロリーが高いからとか、糖分が多いからといって敬遠する人もいますが、アルコールは酒の種類に関係なく、1gにつき約7kcalあります。また、日本酒1合とビール大瓶1本では、それぞれに含まれるアルコールの量はあまり変わりませんが、日本酒1合の糖分はビール大瓶1本の3分の1程度しかありません。

 しょうちゅうやウイスキーなどの蒸留酒は、糖分を含まない分だけカロリーは少ないですが、逆にアルコール分が高いため、少量でもカロリーは高くなります。

 

カロリー表

日本酒1合

ビール大瓶

ウイスキーダブル

量(ml)

180

633

60

カロリー

191

247

139

(四訂食品成分表より)

 私は、1日平均、約2合の日本酒を飲みます。私も、子供のころは肥満児でしたが、日本酒を本格的に飲むようになった24歳ころからは、ほぼ標準体重(身長170cm、体重60kg)を維持しております。

 肥満が原因で糖尿病になる人は、酒から摂取するカロリーよりも、酒と一緒に食べる「つまみ」から摂取するカロリーの方が、はるかに多いはずです。適度な飲食を心がけるだけでも、血糖値はぐっと下がるでしょう。

 くれぐれも、ヤケ食い、ドカ食いなどはやめましょうね。

 暴食を 避ければ増える 飲酒リン


第13回 秋上がり(2000.11.11)

  最近、寒くなってきましたね。朝、起きるのもつらいですよね。いやいや、そんなことは言っていられません。滝澤酒造では、いよいよ新酒の仕込みが始まります。新米を積んだトラックも頻繁にやって来ます。酒を造る喜び、厳しさ、期待、不安、そんなことを考えながら米を担ぎ下ろすとき、また今年もがんばろうと身が引き締まります。

 さて、秋上がりという言葉があります。これは、お酒が蔵の中で夏を越し、秋を迎えたときに、香味が整い、味がまるくなってくることです。

 また、秋落ちという言葉もあります。これは逆に、秋になって、味がだれてくることです。火入れ時期の遅れ、貯蔵状態の悪さなどが原因です。アミノ酸の多い酒、甘口の酒なども秋落ちしやすいといわれます。

 菊泉の秋上がりの時期は比較的遅く、11月上旬くらいから酒の味が乗ってきます。菊泉のしぼったばかりの新酒は、辛口で荒々しく、固い酒という印象を与えます。こうした酒ほど、秋になって熟成の輝きを増すのです。荒々しさがまろやかさに変わり、固さが柔らかさに変わります。

 もう今の時期は、新酒を出荷している蔵もたくさんあると思いますが、新酒のあの独特な香味が苦手という方は、この時期の秋上がりしたお酒はおすすめです。特に、秋上がりした酒のお燗は最高です。この時期は、意外と吟醸酒の温燗もいいですよ。吟醸酒を燗で飲むなんて邪道だという人もいますが、是非お試しあれ。

 毎年、酒の味が乗ってきたころに、新酒の仕込みが始まります。さあ、今年もがんばるぞ。

 秋上がり 心の中にも 燗をつけ



第14回 山廃仕込み(2001.1.3)

 21世紀、明けましておめでとうございます。お正月はいかがお過ごしですか。私は、正月に岩手に帰省した杜氏の留守を預かり、酒母ともろみの管理をしています。

 さて、「山廃(やまはい)」という言葉があります。山廃造りとは、酒母育成の方法のひとつです。通常、酒母を仕込む際に、雑菌に汚染されないよう、乳酸を添加するのですが、こうして育成された酒母を、速醸系酒母といいます。

 一方、山廃酒母は、乳酸を添加せずに、低温で仕込むことで、自然に優良な乳酸菌を生やし、雑菌の増殖を抑えるという方法をとります。

 速醸系酒母、山廃酒母のいずれも、明治末期に開発されました。それ以前の酒母は、麹と蒸米を直径1メートルくらいの桶のなかに入れ、大勢の人で、櫂棒で徹底的にすりつぶすという方法をとっていました。これを「山卸し」または「もとすり」といいます。

 山卸しは、もとすり唄という唄を唄いながら行われることが多かったのですが、これは作業の調子を合わせるという目的と、作業時間を規定するという目的があったようです。

 また、山卸しは深夜に行われることも多かったので、唄を唄うことが、日頃の疲労を緩和してくれたのでしょう。現在でも、もろみの櫂入れをするときなどは、杜氏が美声を披露しています。

 山廃という言葉は、この山卸しを廃止したことに由来しています。ただ、山廃造りは、山卸しを行わなくても、自然界の乳酸菌を利用するという点では古来の方法と共通していますので、出来上がった酒は、昔の日本酒の味に近いタイプといえるでしょう。

 今年は、滝澤酒造でも、何十年振りに、「山廃」でタンク1本仕込みます。風邪をひいて、喉を痛めないよう、気をつけます。唄がうまくないと、いい酒はできませんからね。

  櫂奏で もとすり唄を 継承し


 第15回 英国人の蔵人(2001.3.26)

 今年の酒造りも無事、終了しました。新酒の出来は例年以上に良く、お陰様で埼玉県新酒鑑評会では、弊社の酒が入賞いたしました。また、初めて仕込んだ山廃酒も、思ったとおりの酒質となり、先日、生原酒を瓶詰めしました。近日中に出荷します。

 さて、フィリップ・ハーパーさんという人をご存知ですか。奈良県の梅乃宿酒造に勤務している蔵人さんです。1966年にイギリスで生まれ、オックスフォード大学を卒業し、1988年に大阪にある公立高校の英語教師として来日しました。その後、日本酒の魅力に引かれ、1991年から同社の蔵人として大活躍しています。

 私も、3年前に同社を訪問し、ハーパーさんとお会いしたことがあるのですが、実に日本語が堪能な方で、また酒造りの知識に長けており、私の質問にも完璧に答えてくれました。

 ハーパーさんは、"The Insider's Guide to SAKE"(講談社インターナショナル)を出版し、日本酒の製造工程や、ハーパーさんお勧めの銘柄、居酒屋などを、英語で詳細に記しています。なお、この本は友人のザブスキーさんにいただきました。

 同書によると、ハーパーさんは梅乃宿酒造で働く前に、バーでアルバイトをしていました。そのバーには、100種類以上の日本酒のリストがあり、遠方からやって来るお客さんも多かったそうです。しかし、ハーパーさんは日本酒の誤った知識を披露する客の話にしばしば苦しめられ、嫌な思いをしていたそうです。私も、同じような経験を何度もしたことがあるので、気持ちは良くわかります。また、ほとんどの日本人は、自分たちの宝石のような日本酒文化を、恐ろしいほど気づいていないと言っています。

 ハーパーさんは、日本で唯一の外国人の蔵人ですが、日本酒をこよなく愛し、日本の伝統と文化の担い手として、大変な努力をされています。今年度は、麹造りを担当したそうです。

 弊社でも、日本酒の本当の良さを知ってもらおうと、積極的に蔵見学を実施しています。今年も、多くの方がいらっしゃり、感謝の気持ちで一杯です。弊社では、酒造りの時期は終わりましたが、是非、酒蔵にいらしてください。ハーパーさんが見つけた宝石を、あなたもきっと発見できることでしょう。

異国の地 英国紳士が 咲かす梅 


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